旅館の玄関は東館(本館)の北側にある。この写真では見えにくいが東館は3階建てである。1階には
フロント・ロビー・売店があり、2階は客室、3階は宴会場となっている。写真の右端には西館がみえる。東館と西館は1927年(昭和2年)の建築で、登録有形文化財に指定されている。そのほか客室のある南館と別館、
食事処や厨房のある建物がある(
航空写真)。
全部で16の客室のうち、玄関のある北に面した客室は2室だけで、玄関屋根の右の2階が11号室(14畳+6畳の細長い部屋)、さらに右の西館2階に見える明かりが29号室である。
入り口に立てられた4枚組の吹寄せ舞良戸は内外ともに桟の入った重厚なものである。戸の外側(写真手前)に6畳分、
内側に4畳分(そのうち2畳分はケヤキの一枚板)、つまり入り口部分だけで計10畳のスペースを有する。旅館内の一客室の入り口としては破格と言えるだろう。
この入り口は廊下を挟んで北側の大浴場「つつじの湯」に相対している。大浴場は新しい建て増しだから、もともとはこの入り口は戸外に面していて、西館全体の表玄関の位置付けではなかったのかとも想像される。
22号室は西館1階にあり、上記の
入り口も含めれば4つのスペースが田の字に配される。この4間、計40畳分の全体で22号室であるが、入り口を除いた3部屋にはもともと21、22、23号室と1部屋ずつに番号が付けられていたのだろう。座敷は
南側の庭に面した10畳の2室で、写真の奥が21号室、手前が22号室であると考えられる。どちらかというと
21号室はけれん味のない、
22号室は凝った作りの印象がある。写真左端、入り口の横が下記の寝室(23号室)である。
この部屋は西館の北西角にあり、かつては21、22号室と同様の解放的な座敷であったところが、新館やそこへの通路の増築によって採光を失った空間であろうかと想像される。板敷のモダンな寝室に改装され、トイレや
洗面所も備えて近代的で快適な宿泊空間となっている。合計40畳分もの空間を有し一部をベッドルームとする大胆な改装をしつつも客室には浴室を設けないという、その温泉旅館の正統な姿勢にもおおいに賛同したい。
奥行きは広くはないが、瓦を載せた板塀の向こうには大谿川が流れ、その背後には緑豊かな山が広がる。夜には庭園が
ライトアップされる。