中谷旅館 長野県長野市・戸隠神社門前 |
2024年11月訪問 |
JR長野駅から路線バスで飯綱高原を経由して約1時間の戸隠中社バス停からすぐ、標高はちょうど1,200mである。日本国内では無謀にも標高1,900mを超えるようなところにまで別荘地が開発された事例もあるが、稲作の限界は標高1,100m内外であり、古くから人々が定住して年間を通して安定した生活を営んでいる点からは、戸隠中社門前町は日本を代表する高標高集落と言えよう。また、歴史のある宿坊で重要伝統的建造物に指定されているものだけでも21坊、戸隠宝光社門前も含めれば37坊あり、高野山・善光寺・羽黒山などとならんで日本を代表する宿坊街・門前町とも言えよう。周辺の自然景観も素晴らしく、小鳥ヶ池は徒歩圏内。
中谷旅館は廃仏以前の戸隠山顕光寺儀光坊寶泉院である。普通は寺に所属するいくつかの院の中にそれぞれひとつの坊があるものだと思われるが、戸隠では~坊~院の順になっていることが多い。なお、中谷旅館の「中」の字の右下には捨点をつけるのが正式な表記のようである。
戸隠神社中社大鳥居から望む中谷旅館
中谷旅館(旧宝泉院)は戸隠神社中社の真ん前に位置する。手前に見えるのは有限会社中谷旅館直営のお土産処「宝泉」。その左に見える門柱が中谷旅館の入り口である。元来、本殿から鳥居そして門前町へと下り斜面となっていたものと思われるが、鳥居前の平場と道路が盛土で造成されて、中谷旅館の敷地が道路より一段低い位置となったのであろう。そのため神社の真正面にありながらも目立たない存在となっている。
この写真の中谷旅館右側(西側)奥から鳥居に向かって来る道は戸隠道と呼ばれる旧来からの参道で、善光寺平から戸隠神社の宝光社・火之御子社を経由して中社に達する。また中谷旅館左側(東側)奥から鳥居に向かって登って来るのは県道36号で、長野駅からの路線バスはここから登ってきて鳥居前の戸隠中社バス停に到着する。
本舘
県道36号に面した本館東側である。この建物は外観・内装からはかなり新しい建築のように見えるが、戸隠伝統的建造物の指定を受けていることから少なくとも昭和30年代以前のものである。玄関を入るとフロントおよびロビーがある。玄関右の一階部は神殿および食事処の広間がある。2階には6室の客室があり、普段の宿泊客にはこの2階の客室が割り当てられるのであろう。神殿には廃仏の際に本社から明治2年(1869)に勧請奉仕された九頭竜神の本地八臂弁財天像も安置されている。
そのほか、玄関の左(南側)には新館がある。新館の1階には大広間、2階にはいくつかの客室があるようで、団体客仕様であろう。最近では講の団体参拝などは滅多にないであろうが、神社での結婚式後の披露宴とか、祭祀の納め会などの需要はあるのかもしれない。
客室八番
本館2階南西端(上写真の左奥)に位置し、館内で一番広いと思われる客室。西側の戸隠道に面した4畳ほど縁側そして7.5畳と手前8畳である。踏み込みにはビールなどの飲み物が用意された冷蔵庫がある。7.5畳の左奥には小さなトイレと浴槽が付属する。1階には広い浴室があるから、もちろん風呂はそちらを使用したほうがよい。窓外は戸隠道を挟んで戸隠観光情報センターの広い駐車場があるが、道路面が高いうえに生垣もあって眺望はほとんどない。ちなみに、この生垣も戸隠伝統的建造物(環境物件)に指定されている。一方、東側に面した客室であれば小さな池のある中庭を見下ろすことができる。