ホテル千畳敷 長野県駒ヶ根市・中央アルプス 2022年3月訪問

 中央アルプス宝剣岳の東面、千畳敷カール(氷河の浸食で形成されたすり鉢状の谷地形)の末端に立地するホテル。駒ヶ岳ロープウェイの千畳敷駅に接続している。ホテルやロープウェイの公式ホームページ(中央アルプス観光株式会社)では標高2,612mとされているが、国土地理院の地形図では2,640mと2,650mの等高線の間であって、50mほど東にはなれた標高2,629.9mの電子基準点よりも明らかに高い位置にある。徒歩をほとんど要せず、かつ通年でアクセスできる宿としては日本最高所であろう。なお、路線バスで到着できる季節営業の宿としては乗鞍岳・畳平バス停(標高2,702m)付近の2軒の山荘がある。
 千畳敷のJR最寄り駅は飯田線の駒ケ根駅(標高673m)である。ここから路線バスしらび平駅(標高約1,690m、公称では1,662m)まで約45分、ロープウェイに乗り換えて千畳敷駅(公称2,612m)へ向かう。つまりバスとロープウェイで、それぞれ1,000mほど、合計2,000mほどの標高差を稼ぐわけだが、特に路線バス狭隘・大曲率・急勾配の路線条件と厳しい気象条件のもとで通年運行を実現しているのは驚異的である。バス・ロープウェイの開業は 1967年(昭和42年)、ホテルの開業は 1989年(平成元年)である。 商用電源が通じているのはもちろんのこと、水道には上質な水がふんだんに供給されている。排水処理設備も充実していて、トイレットペーパーの分別とか、シャンプー・石鹸の使用制限も無く、普通のビジネスホテルと同等の生活環境を享受できる。
<ホテル千畳敷> <PHOTOHITO:takutofumito> <Wikipedia> <Google地図> <地理院地図>

ホテル北西側の出入口
 ロープウェイ駅はこの写真のさらに右手前側(南側)にあり、ホテル1階のロビー・売店に直結していて、宿泊客ででなくてもロープウェイ乗客が千畳敷カール側に出るときにはこの出入口を利用する。この出入口は24時間解放されており、登山者が夜間にロビーに避難することも可能である
 出入口の左側(北側)の1階は宿泊客の夕食朝食会場となるが、昼間のロープウェイの運行時間中は一般観光客を対象としたレストランとして営業する。つまり、ホテルの1階部分は基本的にロープウェイ駅に付帯した観光施設となっている。ホテル客室全16室は2階にあり、階段にはホテル利用者以外は2階に立ち入らないようにとの掲示がある。ホテル内にはロープウェイ駅も含めてエレベーターやエスカレーターの設備はない。

北西側・千畳敷カールの展望
 さすがに空が青い。中央左寄りのピークが宝剣岳(2,931m)。2階北西側の客室(201~208室)と1階のレストランからはこのような千畳敷カールを一望できる。駒ヶ岳(2,956m)は宝剣岳の背後になって見えない。
 写真左の斜面沿いに行けば、ほとんど高低差なしでカールの相当奥まで歩けそうに見えるが、この左斜面は雪崩のために立入禁止になっていた。そのため、カール内を散歩しようとすれば右側(ひとつ上の写真の奥側)からカールの底へ、けっこうな急勾配を下降する必要があり、私の足ではあきらめざるを得なかった。健常者であれば軽登山靴にショートスパッツ程度の装備でもカール内の散策は容易であろう。上の写真にはカール内を歩く3人組の人影が小さく写っている。

ホテル南東側
 手前の地上レベルが地下1階で、大浴場がある。2階客室209~216室はこちら側にあり、下記のように南アルプスの展望が開けている。多くの宿泊者は北西側客室(201~208室)からのカールの展望を望むかもしれないが、カール側の眺望は稜線が間近に迫り、かなり圧迫感があるともいえるから、この南東側の客室からの開けた景観(次の写真)と比較して優劣つけがたいだろう。

南東側・南アルプスの展望
 北(左)から北岳、間ノ岳、中央付近に農鳥岳、右端のピークが塩見岳。写真ではわかりにくいが、農鳥岳と塩見岳の中間には富士山が山頂をのぞかせている。実際の視界では、北は甲斐駒ヶ岳、仙丈ケ岳から南は荒川岳、赤石岳まで、南アルプスのほぼ全域を一望のもとに収める。双眼鏡を持参すると大変に楽しいと思う。
 手前は駒ヶ根市内であるが、夜景を期待してはならない。この写真はホテル地下1階レベルの地上から撮影したものであり、2階客室からの展望では、送電鉄塔は全く問題にならないであろう。

201号室(特別室)
 201号室と202号室は特別室である。何が特別であるかというと、広さが10畳(定員6名)であることと、バス・トイレユニットが付属していることである。HPでは公称12.5畳となっているが、これは板敷の縁側等を含めた面積だろう。特別室は2部屋とも千畳敷カール側にあるが、窓外には1階テラスの屋根があって、冬季には窓が開閉できないほどに雪に埋もれてしまう。窓からのカールの展望はレストランの上にある普通室の方が良好だろう。
 普通室としては8畳間(公称10畳、定員5名)が5部屋、6畳間(公称8畳、定員4名)が9部屋ある。208号室と209号室(ともに定員5名)は角部屋で、特に展望が優れていると思われる。

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