白駒荘 長野県茅野市・北八ヶ岳 白駒池畔 2021年9月訪問

 白駒荘は標高2,115mの白駒池の西岸に位置する。山小屋というのが無難であろうが、八ヶ岳や蓼科山登山の足がかりや中継点としての利用はあまりないだろう。大正年間に、奥蓼科渋温泉の経営者が、渋温泉からさらに渓谷を遡り、峠を越えた先の美しい池のほとりに小屋を建てた経緯からしても、山岳リゾートと言った方が当たっているかもしれない。 現在では客室の大部分が個室であること、自動車道に近接していること、また商用電源が引かれていることでは旅館・ホテルにも近いが、上下水道、とくに下水処理は独自に行う必要があり、部屋は板の間に布団を敷くところにも山小屋の雰囲気を残している。普通の旅館・ホテルのつもりで出かけると、相当の違和感をおぼえるだろう。
 白駒荘の創業は大正11年(1922)、茅野-八千穂間に麦草峠越えで未舗装の自動車道が通じたのは昭和40年(1965)頃、国道299号線として整備されたのは昭和57年(1982)である。現在ではJR中央線茅野駅あるいは小海線八千穂駅からバスで1時間あまり、麦草峠に近い白駒池入口バス停から0.7km、徒歩15分で到着できる。バス停がある白駒の池入り口有料駐車場からの遊歩道には30mほどの登り下りがあるが、道幅は広く、よく整備されている。アクセスには特別な登山装備は必要ないが、標高に応じた温度差には気を付けたい。
<白駒荘> <楽天トラベル> <Google地図> <地理院地図>

白駒荘遠景
 白く光る屋根が白駒荘新館。その左に小さく見える三角屋根が本館。 新館は2018年(平成30年)に再建されたもので、再建以降は通年営業している。ただし、国道の麦草峠(レストハウスふるさと~蓼科八ヶ岳国際自然学校の間、約14km)は、11月中旬からゴールデンウイーク前まで車両通行止めとなっている。
 白駒荘新館の1階には玄関食堂、トイレ、浴室、温水も使える洗面所などがあり、2階は客室となっている。洗面所と浴室は本館の宿泊客もこちらを使用する。夕食朝食も、よほどの多客時でなければ本館の宿泊客も新館の食堂となるようだ。新館と本館の間は鉄パイプで組まれた通路で結ばれており、一応外に出ることなく行き来ができる。

本館
 玄関より左奥が大正の創業時からの建物で、右手前は昭和に入ってからの建築である。昭和の部分のつくりや建材は大正部分と全く同じで、恐らくは戦前、少なくとも麦草峠に自動車道が通じる以前の建築であろう。
 本館1階の大正部分は倉庫や従業員部屋(?)として使われており、1階の昭和部分は食堂となっている。この食堂からの池の眺望は秀逸だ。本館2階は客室で、全て個室となっている。大正側の角部屋は12号室、この写真には写っていないが昭和側の角部屋は3号室である。大正部分中ほどの8号室は池の桟橋の正面にあたり、特に眺望が優れている。これらの客室のほとんどは3名定員であるが、中央の出窓のある応接室山側5号室は6名定員で広いスペースとなっている。
 本館2階の階段わきには新設の水洗トイレがあり、夜間の使用にも便利である。廊下の電灯は終夜点灯しており、普通の山小屋のように懐中電灯を頼りにトイレを利用する必要はない。

本館「応接室」
 本館2階中央部の出窓部分の部屋である。本館の客室には基本的に1号室、3号室、などと番号が振られているが、この部屋のみ「応接室」という変則的な名称となっている。かつては一般的な宿泊室ではなく、椅子とテーブルがあるような共有スペースだったのかもしれない。
 8畳ほどの広さの応接室には6組の布団が用意されている。団体客が宿泊するときに使われるのであろうが、当日は3人以上のグループがなく、幸運にも私たちにこの部屋が割り当てられた。予約時に部屋を指定することはできないが、この部屋であれば出窓に腰かけてゆっくりと池を眺めることもできるし、布団を敷いても余裕がある。

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