安田屋旅館 静岡県沼津市内浦三津 | 2025年3月訪問 |
伊豆半島は付け根部分の駿河湾が大きく東へくびれた形をしている。このくびれ部分が内浦湾であるが、その内浦の最南部の三津(みと)の浜に面して安田屋旅館はある。三津へは沼津駅あるいは伊豆長岡駅から路線バスでアクセスできる。どちらの駅からも乗車時間は30分ほど。沼津からの途中には沼津御用邸、伊豆長岡からの途中には伊豆パノラマパークといった観光スポットもある。旅館から北へ150mほどの県道沿いにはコンビニがある。この旅館の売りは何と言っても太宰治執筆の宿であることだが、近年ではアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」主人公である高海千歌およびその飼い犬しいたけの実家として宿泊者が急増したという。私共が宿泊した日にも、アニメファンとおぼしき若い男性の2~3人連れが数組いた。ただし、館内のアニメ関係のディスプレイは玄関付近に限られていて、アイドル系アニメに反感のある者にとってもそれほど目障りではない。
太宰が訪れたのは22年2月上旬ごろ、と記録が残る。松棟の2階に約半月にわたって滞在し、『斜陽』の1、2章を執筆。書き捨てた紙を大量に出したため、従業員の間で話題になっていたというが、本人は名乗っておらず、従業員は太宰とは分からなかったのだという。滞在中の太宰は夜になると、伊豆長岡(現伊豆の国市)の方まで出向いて酒をたしなんでいたと伝えられている。太宰だったと判明したのは23年に自殺した後のこと。新聞記者が旅館を訪ね、「ここに泊まっていましたよね」と聞かれて分かったのだという。石原颯「にぎわう2つの〝聖地〟『斜陽』執筆、アニメのモデル 静岡県沼津市 安田屋旅館」産経新聞(2018/8/20) 22年:昭和22年(1947)。 記録が残る:宿帳があるのだろうか。 書き捨てた紙を大量に出した:もし保存していたら大変なお宝である。太宰といえば、夫人によるよどみない口述筆記などで作品を一気に完成させるイメージがあり、大幅な修正を繰り返していたことは意外である。 本人は名乗っておらず:匿名や偽名で宿泊したとは考えづらいので、おそらく本名の津島修治を名乗っていたのだろう。 酒をたしなんでいた:夜な夜な痛飲していたに違いない。
千歌の実家のモデルは、国の有形文化財で太宰治(1909~48年)ゆかりの安田屋旅館。若女将(おかみ)の安田麻紀さんは「お客さんは10倍は増えた」と聖地効果の恩恵を受けている。吉沢智美「ラブライブ!サンシャイン!!(沼津市) ヒロインたち躍り輝く街」産経新聞(2017/8/10) お客さんは10倍:アニメ放映から約10年を経過した現在では予約を取りにくい状況はほぼ解消し、旅館内も従前の落ち着きを取り戻している。